認知症への備えは、診断を受けてから始めるものとは限りません。

判断する力が十分にあるうちなら、誰に、何を、どのように支えてほしいかを自分で決められます。すでに契約や財産管理が難しい場合は、法定後見によって必要な支援を整えます。

重要なのは、病名だけで制度を選ばないことです。本人が今できること、困っている手続き、今後の生活を見て判断します。

この記事でわかること

  • 認知症の段階に応じた制度選び
  • 任意後見と法定後見の使い分け
  • 成年後見以外に備えるべきこと

認知症になると起こりやすい困りごと

認知症の症状や進み方は人によって異なります。生活の中では、次の問題が現れることがあります。

  • 通帳や印鑑の保管場所がわからなくなる
  • 公共料金や施設費の支払いが滞る
  • 訪問販売や不要な契約を繰り返す
  • 介護サービスや施設入所の契約内容を理解できない
  • 自宅の管理や売却が進められない
  • 相続手続きで必要な判断ができない

家族が代わりに銀行へ行っても、委任の意思を確認できなければ手続きが進まない場合があります。家族であることだけでは、本人の財産を自由に管理できません。

段階1 元気なうちに希望を形にする

本人が契約の内容と結果を理解できる段階では、任意後見を検討できます。

任意後見契約では、将来支援してほしい人を選び、財産管理や生活上の契約に関する権限を公正証書で定めます。

ただし、契約を結んだ時点で任意後見人の仕事が始まるわけではありません。判断する力が低下したあと、家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると開始します。

その間の変化に気づくため、定期的に連絡する見守り契約を組み合わせることがあります。日常の支払いなどを先に任せたい場合は、財産管理委任契約を別に検討します。

段階2 少し不安が出たら能力を個別に確認する

物忘れが増えたからといって、直ちにすべての契約ができなくなるわけではありません。

重要なのは、本人が契約の目的、任せる内容、費用、将来の結果を理解できるかです。日によって状態に差がある場合もあります。

任意後見、遺言、家族信託などを検討するときは、医師の意見、公証人や専門家との面談、本人の言葉を記録するなど、意思確認を丁寧に行います。

家族だけで「まだ大丈夫」「もう無理」と決めず、早い段階で専門家へつなぐと選択肢を確認しやすくなります。

段階3 財産管理や契約が難しい場合は法定後見を検討する

すでに本人が契約内容を十分に理解できず、生活上の手続きが止まっている場合は、法定後見が候補になります。

家庭裁判所は本人の判断する力に応じ、後見、保佐、補助のいずれが適切かを判断します。必要な支援の範囲は一律ではありません。

後見人等が選ばれると、預貯金の管理、介護サービスや施設入所の契約、不利益な契約への対応などを行います。本人の自宅を処分する場合など、別に家庭裁判所の許可が必要となる手続きもあります。

成年後見だけでは備えられないこと

成年後見は、本人が生きている間の財産管理や契約を支える制度です。亡くなったあとの財産の分け方を決める制度ではありません。

そのため、希望に応じて次の仕組みを別に検討します。

希望検討する仕組み
将来支える人を自分で選びたい任意後見契約
元気なうちから定期的に見守ってほしい見守り契約
日常の財産管理を任せたい財産管理委任契約
亡くなったあとの財産の承継を決めたい遺言
葬儀、納骨、行政手続きなどを頼みたい死後事務委任
特定の財産管理を家族へ託したい家族信託を含む選択肢の検討

家族信託は、本人の身上保護やすべての財産を当然にカバーする制度ではありません。成年後見とどちらが得かではなく、目的ごとに役割を分けます。

家族で早めに共有したい情報

認知症への備えとして、次の情報を本人と家族で整理しておくと役立ちます。

  1. 預貯金、不動産、保険、年金、負債の一覧
  2. 毎月の収入と生活費、医療費、介護費
  3. かかりつけ医、ケアマネジャー、利用中のサービス
  4. 将来住みたい場所と受けたい支援
  5. 支援を頼みたい人、頼みたくない人
  6. 遺言や既存の契約の有無と保管場所

暗証番号や秘密情報を家族全員で共有するという意味ではありません。必要なときに資産や契約の所在を確認できる状態を作ることが目的です。

相談のタイミング

次の場面では、制度利用を決めていなくても相談を検討してください。

  • 同じ支払いを何度も行うようになった
  • 銀行や施設から意思確認が難しいと言われた
  • 自宅を売って施設費に充てる必要がある
  • ひとり暮らしで支援者が近くにいない
  • 家族間で財産管理の方針が分かれている
  • 本人が将来への希望を話し始めた

早い相談の利点は、すぐに後見を始めることではありません。本人が選べるうちに、使える方法と使わない方法を整理できる点にあります。

まとめ

認知症への備えでは、本人の判断する力が十分なうちは任意後見や見守りなどを検討し、すでに財産管理や契約が難しい場合は法定後見を考えます。

成年後見だけですべての将来を整えることはできません。遺言や死後事務委任など、目的の違う仕組みを時間の流れに沿って組み合わせる視点が必要です。

田中司法書士事務所では、判断できる今から支援が必要になったあとまで、暮らし全体を見ながら準備を整理します。まだ診断を受けていない段階でも、ご相談いただけます。

認知症の診断名だけで契約能力や後見類型が決まるわけではありません。医療面は医師、法的な手続きは家庭裁判所や専門家へ個別にご確認ください。