成年後見制度は、判断する力が不十分な方の財産と暮らしを守るために欠かせない仕組みです。
一方で、家族にとって便利な財産管理サービスではありません。始めたあとに「思ったより自由がきかない」「家族を候補にしたのに専門職が選ばれた」と戸惑うことがあります。
問題は制度そのものではなく、目的と制約を知らずに申し立てることです。申立て前に知っておきたい注意点を整理します。
この記事でわかること
- 制度開始後に続く制約
- 財産の使い方と不動産処分の注意
- 申立て前に確認すべき判断材料
注意点1 一度始まると簡単にはやめられない
法定後見は、目的の手続きが終わったら終了する制度ではありません。
たとえば、不動産を売却するために申立てを行った場合でも、売却が終わっただけでは後見は終わりません。本人の判断する力が回復するなどの事情がない限り、原則として本人が亡くなるまで続きます。
後見人を家族の都合で交代させることもできません。正当な理由があり、家庭裁判所の許可を得て辞任するなど、所定の手続きが必要です。
「今回だけ代わりに契約したい」という目的なら、本当に成年後見が必要か、ほかの方法が使えるかを先に確認します。
注意点2 候補者が後見人になるとは限らない
申立書には後見人等の候補者を書けますが、決定権は家庭裁判所にあります。
親族間の対立、財産の多さ、管理の複雑さ、候補者と本人の利害関係などによって、司法書士や弁護士などの専門職が選ばれることがあります。親族後見人に加えて、監督人が選任される場合もあります。
希望と違う人が選ばれそうだからという理由だけで、申立てを自由に取り下げることはできません。申立て後の取り下げには家庭裁判所の許可が必要です。
誰が選ばれても本人を支えられる計画になっているかを、提出前に考えておく必要があります。
注意点3 本人の財産を家族のために使えない
後見人が管理するお金は、本人のために使う財産です。
家族への贈与、相続税を減らすための対策、親族への貸付け、本人に扶養義務がない人の生活費などは、本人の利益にならないとして認められないことがあります。
これまで本人が毎年孫へお祝いを渡していた場合でも、後見開始後に同じ支出を当然に続けられるとは限りません。金額、本人の意思、生活への影響などを慎重に判断します。
後見人は家族全体の財産を調整する人ではなく、本人だけの利益を守る人です。
注意点4 自宅の売却には制約がある
本人が住んでいる、または以前住んでいた家を売却する場合、家庭裁判所の許可が必要になることがあります。居住用不動産の処分は、本人の生活基盤に大きく影響するためです。
施設費を支払うための売却でも、必要性、売却条件、今後の住まいなどを裁判所へ説明します。買主や退去日を先に確定すると、許可の時期と合わない可能性があります。
不動産を売る予定があるなら、申立て段階から資料と日程を整理することが大切です。
注意点5 後見人には継続的な報告が必要
家族が後見人になっても、家庭内の金銭管理とは扱いが変わります。
本人名義の口座を分け、通帳、領収書、契約書を保管し、財産目録や収支を家庭裁判所へ報告します。使途を説明できない出金があると、追加の調査や返還を求められることがあります。
仕事、育児、介護をしながら、長期間この管理を続ける負担も見込んでおく必要があります。
注意点6 継続費用が発生することがある
専門職後見人や監督人が選ばれた場合、家庭裁判所が報酬を決め、本人の財産から支払うことがあります。
申立て時の費用だけでなく、制度が何年続く可能性があるかを考える必要があります。任意後見でも、開始後は任意後見監督人の報酬が生じる可能性があります。
金額を申立て前に確定することは難しいため、本人の年金、生活費、施設費、医療費を含めた収支で考えます。
注意点7 後見人にできないこともある
後見人は、財産管理や契約を支えますが、介護を直接行う人ではありません。
また、結婚、離婚、養子縁組、遺言など、本人だけが決める行為を代わりに行うことはできません。医療行為への同意についても、成年後見人に包括的な権限が当然に与えられるわけではありません。
生活上のすべての判断を後見人へ移す制度ではない点を、家族や支援者で共有しておくことが重要です。
後悔を防ぐ5つの質問
申立て前に、次の質問へ答えてみてください。
- 今、本人の暮らしで止まっている手続きは何か
- その問題は成年後見でなければ解決できないか
- 制度が長期間続いても、本人の収支は保てるか
- 家族が後見人にならない場合も受け入れられるか
- 本人が元気なうちに使える契約は残っていないか
判断する力が十分にあるなら、任意後見、見守り契約、財産管理委任、遺言、家族信託などが選択肢になる場合があります。ただし、目的と効果が違うため、単純な代替関係ではありません。
まとめ
成年後見制度の主な注意点は、簡単に終了できないこと、候補者が選ばれる保証がないこと、財産の使い方が本人の利益に限られること、報告と費用が長期に続く可能性があることです。
これらは本人の権利と財産を守るための仕組みでもあります。制約を理解し、制度を使う目的と合っているかを確認すれば、必要な支援につなげやすくなります。
田中司法書士事務所では、法的な手続きだけでなく、その後の暮らしまで見通して制度利用を整理します。申立てを決める前の相談でも構いません。
本記事は一般的な注意点をまとめたものです。個別の財産処分や支出の可否は、後見の類型、付与された権限、家庭裁判所の判断により異なります。
